社労士事務所は忙しい、とよく聞きます。
では、いつ、どれくらいなのか。求人票を見ても、そこはほとんど書かれていません。
社労士特化型の求人サイトに載っていた354件を1件ずつ開いて、残業の欄だけ抜き出してみました。
残業時間を数字で書いていた求人は、1割ほどしかありませんでした。
この記事でわかること
- 繁忙期が6〜7月に集中する、制度上の理由
- 求人票354件のうち、実際の残業時間を書いていたのは何件か
- 求人票にある「30時間」という数字の、2通りの読み方
実際の残業時間を数字で書いていた求人は、354件中39件(11.0%)。残りの315件は書いていませんでした。
繁忙期が6〜7月に集中する理由
社労士の繁忙期は年に何度かありますが、6〜7月だけ性質が違います。2つの手続きの期限が同じ日に重なるからです。
| 手続き | 期間 | 期限 |
|---|---|---|
| 労働保険の年度更新 | 6月1日〜7月10日 | 7月10日 |
| 算定基礎届(定時決定) | 7月1日〜7月10日 | 7月10日 |
| 年末調整 | 11月〜翌1月 | 翌年1月31日 |
| 賞与支払届 | 賞与支給の都度 | 支給後5日以内 |
年度更新と算定基礎届は、いずれも令和8年度の期限が7月10日です。
しかも算定基礎届の受付開始は7月1日。年度更新の期間の後半に、算定基礎届がまるごと重なる形になります。
労働保険の年度更新と算定基礎届は、締切が同じ7月10日に重なる
労働保険の年度更新
算定基礎届(定時決定)
年度更新の期間の後半10日間に、算定基礎届がまるごと重なります。顧問先の数だけ、この10日に作業が積み上がります。
顧問先が多い事務所ほど、この10日間に全社分の作業が詰まります。事務所と事業会社で繁忙期がどう違うかは事務所と一般企業を求人360件から比較した記事で書きました。ここから先は、求人票に何が書いてあるか、です。
なぜ算定基礎届が重いのか
締切が重なるだけなら、日程をずらせば済みそうに見えます。そうはいかない理由が、算定基礎届の中身にあります。
算定基礎届は、7月1日時点の被保険者について、4〜6月に払った報酬の平均から標準報酬月額を決め直す手続きです。定時決定と呼ばれます。
決まった額は、その年の9月から翌年8月まで使われます。
4〜6月の給与が出そろうまでは手を付けられず、締切は7月10日。顧問先の全従業員分を、その短い間に片付けることになります。前倒しのしようがありません。
顧問先が30社あり、1社あたり20人なら600人分。事務所の繁忙期が「人数×社数」で効いてくるのはこのためです。
6〜7月以外にも山はある:1年の手続きカレンダー
6〜7月がいちばん重いことは変わりません。ただ、事務所の1年を通して見ると、山はほかにもあります。
期限が法令や運用で決まっている手続きを、月の順に並べました。
| 時期 | 手続き | 期限・適用 | 事務所で重くなる理由 |
|---|---|---|---|
| 3月 | 協会けんぽの保険料率の改定 | 3月分(4月納付分)から | 顧問先ごとに給与計算の料率を切り替える |
| 4月 | 新卒入社の資格取得届(健康保険・厚生年金) | 事実発生から5日以内 | 入社日が4月1日にそろい、件数が一度に出る |
| 4〜5月 | 雇用保険の資格取得届 | 雇用した日の翌月10日まで | 4月入社分の期限が5月10日に集まる |
| 6〜7月 | 労働保険の年度更新・算定基礎届 | 7月10日(令和8年度) | 上の節のとおり。1年でいちばん重い |
| 6〜7月・12月 | 賞与支払届 | 賞与支払日から5日以内 | 夏と冬の賞与月に、顧問先の分がまとまる |
| 9月 | 定時決定で決まった標準報酬月額の適用開始 | 9月から | 給与計算で控除額を切り替える |
| 11〜1月 | 年末調整 | 翌年1月31日 | 給与計算を受託している事務所で重なる |
並べてみると、山は大きく3つ。3〜5月の料率改定と入社手続き、6〜7月の年度更新と算定基礎、12月の賞与と年末調整です。
どれも「期限が全社同じ日」か「件数が同じ月に集まる」かのどちらか。顧問先の数だけ作業が積み上がる、という構造は6〜7月と同じです。
逆に、この表の中では8月と10〜11月に期限の山がありません。事務所ごとの受託内容で変わるので断言はできませんが、有給休暇の取りやすさを面接で聞くなら、この時期の実態を聞くと答えが具体的になります。
残業についても同じで、「残業は月何時間ですか」より「7月の残業は何時間でしたか」と月を指定して聞くほうが、答えに幅が出にくくなります。
求人354件の残業記載を1件ずつ見た
社労士JOBの掲載求人を1件ずつ開き、求人票本文の記載を集計しました(2026年8月29日時点、全355件のうち取得できた354件)。
| 記載の種類 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 固定残業(みなし残業)を採用 | 247件 | 69.8% |
| 固定残業なしと明記 | 26件 | 7.3% |
| 実際の残業時間を数値で記載 | 39件 | 11.0% |
| 繁忙期に言及 | 25件 | 7.1% |
目を引くのは3行目です。実際に月何時間くらい残業するのかを書いている求人は、354件中39件しかありません。
一方で、固定残業を採用している求人は247件。約7割です。
求人票の「30時間」には2つの意味がある
ここが読み違いの起きる場所です。
固定残業の相当時間が数値で分かった186件を集計すると、中央値は30時間でした(範囲は0〜75時間)。
一方、実際の残業時間の目安を書いていた39件は、中央値25時間(範囲は3〜45時間)。
| 数字の種類 | 件数 | 中央値 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 固定残業の相当時間 | 186件 | 30時間 | 給与にあらかじめ含まれている枠 |
| 実際の残業時間の目安 | 39件 | 25時間 | 実際に働くと見込まれる時間 |
同じ「30時間」でも、前者は「30時間分の残業代が給与に入っている」という契約条件です。実際に30時間残業するという意味ではありません。
逆に、枠を超えた分は別途支払われます。求人票に固定残業と書かれていたら、相当時間・相当額・超過分の支払いの3点が明記されているかを確認してください。
なお2つの数字は母数が違います(186件と39件)。同じ求人を比べたものではないため、傾向として見る範囲に留めてください。
繁忙期に触れている求人は25件だけ
繁忙期に言及していた求人は25件、全体の7.1%でした。
言い換えると、9割以上の求人票は、繁忙期の重さに一言も触れていません。
書いてある25件の内容も、「繁忙期の土曜日出勤あり」「年末調整等の繁忙期に支援をお願いする可能性がある」といった短い記述が中心です。月何時間まで増えるかを書いたものはさらに限られます。
求人票を読み込めば繁忙期の実態が分かる、という前提は成り立ちません。書かれていないことを読み取ることはできないからです。
確認する場所を、求人票から面接に移す必要があります。
面接で聞く3つの質問
抽象的に「残業は多いですか」と聞いても、返ってくる答えも抽象的になります。時期を特定して聞いてください。
1.「6月から7月10日までの残業は、月何時間くらいになりますか」
年度更新と算定基礎届が重なる期間を名指しで聞きます。時期を具体的に出すと、答える側も概算を出しやすくなります。
2.「繁忙期に、1人あたり何社を担当しますか」
残業時間より担当社数のほうが、答えが揺れにくい数字です。事務所の総顧問先数と職員数から割り戻して聞くこともできます。
3.「固定残業の相当時間を超えた月は、どのくらいの頻度でありますか」
固定残業を採用している求人は約7割です。枠を超える月がどのくらいあるかは、実態を測る指標になります。
答えにくそうであれば、それ自体が情報です。エージェント経由で応募している場合は、面接前に担当者へ確認を依頼するほうが聞きやすくなります。
よくある質問
Q. 6〜7月以外に忙しい時期はありますか?
年末調整(11月〜翌1月)があります。賞与支払届は支給の都度、支給後5日以内の提出です。ただし6〜7月のように2つの法定期限が同じ日に重なる時期は他にありません。
Q. 固定残業ありの求人は避けるべきですか?
そうとは限りません。約7割が採用しているため、避けると選択肢がかなり狭まります。相当時間・相当額・超過分の支払いの3点が明記されているかで判断してください。
Q. 残業を書いていない求人は、残業が多いのですか?
そう読むだけの根拠はありません。書式として書いていないだけの場合もあります。書いていないことを悪い方向に解釈するより、面接で聞いて埋めたほうが早いです。
Q. 事業会社なら繁忙期は軽いですか?
自社のサイクルで決まるため、事務所ほど極端な山にはなりにくい傾向があります。ただし給与改定や賞与、入社シーズンなど、別の山があります。
まとめ
- 年度更新(6月1日〜7月10日)と算定基礎届(7月1日〜7月10日)の締切が、同じ7月10日に重なる。1年でいちばんの山
- 求人354件のうち、実際の残業時間を書いていたのは39件(11.0%)。繁忙期に触れていたのは25件(7.1%)
- 固定残業の相当時間(中央値30時間)と実際の残業時間(中央値25時間)は別の数字
求人票に書かれている数字が、何を指しているのかを見分けてください。「30時間」の意味を取り違えると、年収の見込みまでずれます。
そのうえで、書かれていない部分は面接で埋める。求人サイト側の中身については社労士JOBの求人を確認した記事で整理しています。
この記事で確認したもの
対象:社労士JOBの公開求人355件のうち、求人票本文を取得できた354件の残業に関する記載
時点:2026年8月29日(手続きカレンダーは2026年9月26日確認)
やったこと:求人票の詳細欄を1件ずつ開いて、残業時間の記載があるかどうかで分けました。ページ下部の「関連求人」欄は集計対象外です。固定残業の相当時間と実際の残業時間は意味が違うため、別項目として分けています。年度更新と算定基礎届の期間は厚生労働省と日本年金機構が公表する令和8年度の日程です。手続きカレンダーは、協会けんぽ・日本年金機構・ハローワークの各ページに書かれている期限をそのまま写しました。
書かなかったこと:記載がなかった315件の実際の残業時間。求人票に書かれていない以上、推測は載せていません。書いていないこと自体が情報だと考えて、割合のほうを出しました。
※記事内の数値は2026年8月29日時点で確認したものです。求人件数と残業記載の集計は、社労士JOBの掲載求人(全355件)のうち求人票本文を取得できた354件を対象に、各求人の詳細欄の記載を1件ずつ確認しました。関連求人欄の記載は集計に含めていません。労働保険の年度更新および算定基礎届の期間は、厚生労働省および日本年金機構が公表する令和8年度の日程にもとづきます。

