社労士の資格を取ったら、独立したほうがいいのか。
検索すると、独立すれば収入に上限がない、勤務は安定している、という説明が並びます。
どちらも間違いではありません。ただ、実際に何人が独立しているのかを書いた記事は、ほとんど見当たりません。
そこで、全国社会保険労務士会連合会が公表している登録データを、10年分並べてみました。
この記事でわかること
- この10年で開業が何人増えたか
- 社労士法人の約半数が一人法人である理由
- 独立側の平均年収が、どの統計にも載っていない理由
増えているのは独立ではありません。開業はこの10年で5.7%しか増えていませんでした。
登録者46,237人の内訳
2025年3月31日現在の登録者数です。
| 登録区分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 開業 | 24,819人 | 53.7% |
| 法人の社員 | 4,127人 | 8.9% |
| 勤務等 | 17,291人 | 37.4% |
| 合計 | 46,237人 | – |
10年で伸びたのは、独立ではなく法人化だった
開業
勤務等
社労士法人の社員
2015年度末から2024年度末までの増減。合計は6,127人増えています。
開業と法人の社員を足した「自分の事務所を持っている側」は28,946人。全体の62.6%です。
比率だけ見れば独立が多数派に見えます。ただし、動いているのは比率ではなく中身のほうでした。
10年で増えた6,127人の中身
2015年度末と2024年度末を並べます。
| 区分 | 2015年度末 | 2024年度末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 開業 | 23,480人 | 24,819人 | +1,339人(+5.7%) |
| 法人の社員 | 1,648人 | 4,127人 | 2.50倍 |
| 勤務等 | 14,982人 | 17,291人 | +2,309人(+15.4%) |
| 合計 | 40,110人 | 46,237人 | +6,127人 |
10年で6,127人増えました。そのうち開業の増加は1,339人だけです。増加分の約22%にすぎません。
残りは法人の社員(+2,479人)と勤務等(+2,309人)。個人開業はほぼ据え置きのまま、社労士法人と企業内の社労士が増えた、という形です。
社労士法人の約半数は「一人法人」
法人会員数は2015年度末の960から、2024年度末には3,103まで増えました。10年で3.2倍です。
見るべきはその内訳です。3,103のうち1,529(49.3%)が、社員1人の社労士法人でした。
法人の約半数は、一人でやっている計算になります。「独立する」と「法人の社員になる」の境目は、言葉ほどはっきりしていません。
独立か勤務かの二択で考えると、この選択肢が視界から落ちます。
「独立の平均年収」はどの統計にも載っていない
ここが、比較サイトの触れない部分です。
社労士の年収としてよく引かれる賃金構造基本統計調査は、事業所に雇用されている労働者を対象にした調査です。開業社労士は雇用されていないため、そもそも調査対象に入っていません。
記事で見かける社労士の平均年収は、どれも勤務側の数字です。独立側の平均を示す公的統計は見当たりません。
独立すれば年収が上がる、の根拠を探しても、比べる相手がそもそもいません。年収の数字が出典でどれだけ動くかは、出典で2倍以上違う理由を分解した記事で書いています。
収入構造で違うのは3つだけ
金額より、お金の入り方で比べるとわかりやすくなります。
1. 入金のタイミング
勤務は毎月決まった日に給与が入ります。開業の主力である顧問契約も月次入金ですが、契約が積み上がるまでは収入が読めません。この期間を何ヶ月分の生活費で支えられるかが、独立できるかどうかを大きく左右します。
2. 固定費
開業すると、都道府県会の会費、賠償責任保険料、事務所費用、業務ソフト費用がかかります。会費の額は所属する都道府県会によって違うため、自分の所属予定会の会則で確認してください。
3. 上限と下限
勤務は給与テーブルという下限に守られる代わりに、上限もテーブルで決まります。開業は下限の支えがなくなる代わりに、上限の制約も外れます。どちらが有利かより、どちらのリスクなら引き受けられるか、の話です。
独立で詰まりやすい3つのこと
顧客がゼロから始まることは、独立する前から分かっています。詰まるのは、もっと手前の部分です。
社会保険の扱いが変わる
勤務なら厚生年金と健康保険は労使折半で、雇用保険にも入っています。個人で開業すると国民年金と国民健康保険になり、雇用保険はなくなります。回避策は、一人社労士法人にして法人から役員報酬を受け取る形にすること。法人として社会保険に加入できます。ただし設立費用と維持コストが増えるため、想定売上と合わせて試算してください。
固定費が売上より先に出ていく
回避策は単純です。独立前に年間固定費を書き出してください。会費、保険料、業務ソフト、通信費、税理士報酬まで含めた年額を、顧問料の想定単価で割る。必要な顧問先の件数が出ます。感覚ではなく件数で見えると、判断が具体的になります。
受注が手続業務に偏る
手続中心の構成にすると、単価を上げにくい状態から抜けにくくなります。回避策は、勤務している間に相談指導や規程整備の経験を取りにいくこと。独立後は、その機会を自分で作らなければなりません。
勤務側にも制約はあります
給与は事業所の給与テーブルの範囲で決まります。資格を取っただけで大きく変わるとは限りません。資格手当の有無と金額は、求人票と面接で確認できます。
もう1つは、積める経験が勤務先に依存することです。顧問先の業種が偏っている事務所では、扱う論点も偏ります。事務所と一般企業では経験の中身が違うため、そこも合わせて考えてください。
判断の順番
登録者の平均年齢は57.06歳。年齢別では50歳代が31.9%で最多です。
2024年度試験の合格者を職業別に見ると、会社員が59.9%を占めています。
会社員のまま合格して、どこかの時点で進路を決める人が多い。最初から独立か勤務かを決めておく必要はありません。
勤務で実務の幅を広げ、固定費と必要な顧問先の数を計算できるようになってから、独立するかを決める。増えているのが法人の社員と勤務等なので、実際にそう動いている人が多いと見ています。
費用の面でも開業と勤務等は別枠です。登録時に動く金額と会費の差は社労士の登録費用と都道府県会ごとの入会金で10会分を並べています。
よくある質問
Q. 独立と勤務、どちらが年収は高いですか?
比べられる統計がありません。賃金構造基本統計調査は雇用されている人が対象で、開業社労士は含まれていないためです。勤務側は求人票の数字、独立側は想定顧問先数から、それぞれ別に見積もってください。
Q. 未経験でいきなり独立できますか?
制度上は登録すれば開業できます。ただし顧問契約は実務の説明ができないと取りにくいため、事務所で経験を積んでからのほうが現実的です。
Q. 一人社労士法人にする利点は何ですか?
法人として社会保険に加入できる点と、対外的な信用です。設立費用と維持コストがかかるため、想定売上と合わせて判断してください。
Q. 会費は勤務登録でもかかりますか?
登録している限りかかります。金額は所属する都道府県会によって違います。事業所が負担する取り扱いをしている職場もあるため、求人票や面接で確認できます。
勤務のまま資格を使う道もあります。副業として受けられるかは、就業規則より先に登録区分で決まります。社労士の副業を条文から整理した記事を先に読んでください。
まとめ
- 10年で増えた6,127人のうち、開業の増加は1,339人(+5.7%)。伸びたのは法人の社員と勤務等
- 社労士法人3,103のうち1,529は社員1人。独立と法人化の境目は曖昧
- 独立側の平均年収を示す公的統計はない。比較する数字自体が存在しない
有利かどうかを平均値で決めることはできません。年間固定費と、それを賄う顧問先の件数から逆算してください。
転職を挟んで経験の幅を広げるなら、特化型と総合型を求人数から比較した記事も参考になります。
この記事で確認したもの
対象:社労士の登録者数と法人会員数の10年推移(全国社会保険労務士会連合会「社会保険労務士白書 2025年版」第2章)
時点:2026年8月29日(白書の基準日は2025年3月31日)
やったこと:白書第2章から登録区分別の人数を年ごとに拾って、10年間の増減を出しました。社労士法人3,103のうち社員1人の法人がいくつあるかも同じ章の数値です。開業と勤務の境目が制度上あいまいになっている点は、この内訳から読んでいます。
書かなかったこと:開業社労士の収入。白書にも公的統計にも記載がなく、勤務側と比較できる数字がそもそも存在しません。ネット上で見かける開業年収の数字は出典を確認してください。
※記事内の数値は2026年8月29日時点で確認したものです。登録者数・法人会員数・試験の数値は、全国社会保険労務士会連合会「社会保険労務士白書 2025年版」第2章(2025年3月31日現在)にもとづきます。

